こんにちは、a-box-of-chocolateです。ここ数日で寒くなったイスラエル、慌ててトレーナーやパーカーを引っ張り出しました。それもそのはず、もうすぐ12月、早いもので今年もあと一ヶ月少々です…!
右も左も分からずにスタートしたイスラエルでの生活がしっかりと『私の日常』となった今、私の駐在モットーである【住めば都マインド】はうまく働いていると感じます。しかし、どんな国に住んでも、一番気になるのは「治安」。果たして、イスラエルに住むのは安全なのでしょうか?テルアビブで暮らすことに危険はないのでしょうか?駐在一年目の視点でまとめてみたいと思います。
広義でのイスラエル:【戦争中の国】=危険で治安が悪い?テルアビブの一般市民生活はどうなっているの?
まずは一般論ですが、「現在進行形で戦争や武力紛争が発生している国」に駐在するということは、両手を広げて「安全だから海外旅行においで!」と言えるような平和な国ではない、ということは大前提です。外務省海外安全ページの情報に基づくと、イスラエルはレベル3「渡航は止めてください(渡航中止勧告)」という区分です。国内でも、ガザ地区やレバノンとの国境付近はレベル4(退避勧告)が発令されています。退避勧告が出される「治安レベル」とは、近隣の中東諸国(レバノン、イラク、シリア、イエメン、アフガニスタン)も同様ですので、ホリデーの旅行先に選ぶような「安全な国」ではない、という点で誤解がないように明記しておきます。
とはいえ、渡航中止や退避が奨励されるような国や地域にも、そこで生活している一般市民は存在します。民家はもぬけの殻で、経済活動も一切していない、、、ということは全くなく、なんならイスラエルは活発な経済活動(と軍事活動)がいつもどおり継続されている国なのです。結論から先に述べますと、私個人としては「テルアビブは安全で住みやすい都市」だと感じています。
①イスラエル駐在生活に対して、安心感と満足感を得られるまでの道のり
では最初からイスラエルでの生活を受容できていたかと言われると、決してそんなことはありません。こちらの図をご覧ください。
ノルウェーの社会学者であるリスガード(Lysgaard)が提唱した「異文化適応曲線」というもので、人が新しい環境に慣れるまでの心理的プロセスをU字カーブで表したものです。
- ハネムーン期(Honeymoon):新しい環境への期待に胸を膨らませ、ポジティブな側面に注目する時期
- カルチャーショック期(Crisis):ハネムーン期には気づかなかった疲れやストレスが表面化し、価値観や習慣の違いを受け入れられなくなる時期
- 回復期(Recovery):異文化のポジティブな面だけでなくネガティブな面も受け入れようとするとき
- 適応期(Adjustment):自分の文化と異文化に寛容になり、環境に適応していく時期
イスラエルに来てから今まで、私は正にこのプロセスを辿ってきたなと思います。
【4月~】3年ぶりの駐在!未知の国イスラエル!中東!ワクワク・ドキドキ!テルアビブって思ったより高層ビルが多くて都会?地中海めちゃくちゃ奇麗~♪最高!物価は高いけど、ショッピングモールも多くてなんでも揃ってて便利かも!
【6月~】ヘブライ語を頑張ろうと思って意気込んでみたけど、難しすぎて自分が落ちこぼれ生徒になった気分…。買い物するのも、いちいちグーグルレンズ使わないと何が売ってるのかわからない。イスラエルの人たちって自己主張激しいし、自由気ままだし、無秩序なの?日本ではほとんど風邪ひいたことなかったのに、高熱、鼻水、長引く咳、食中毒疑惑、不眠と身体のあちこちが悲鳴を上げる…(どん底)
【8月中旬~】来る日も来る日も、開放的な夏の気候。ビーチに繰り出したり、カフェやレストランで友達や家族とおしゃべりを楽しんだり、イスラエル人の前向きなエネルギーってすごいなぁ。相変わらず、スマホのミサイルアラートも、街中で爆音で聞こえるサイレンも心臓に悪いけど、IDFが守ってくれるから意外と大丈夫なのかも?それにヘブライ語が適当でも、生きていけてる気がするなぁ?大丈夫?って声かけてくれる親切な人もたくさんいる!
【11月~】これって、もう駐在生活を楽しんだもの勝ちじゃない?戦争が起きている、という変えられない事実、そう簡単に変わらないものに対して「変わってくれ!」と他力本願になるより、自分が今この瞬間をどう生きるか、それを大事にしているイスラエル人のマインドを見習いたい!国内でアジア人だからって差別されることもないし、日本人っていうだけで逆に珍しい存在なんだから、どんどん人と会って堂々としてればいいかも!
こういった具合に、駐在生活をポジティブに捉えられるまでに私自身が成長しました。「カルチャーショック期」に陥るタイミングは人ぞれぞれだと思いますが、私はわりと早い段階で「え~日本に帰りたいな…」と思ってしまうことが多かったです。やはり、ロケット弾やミサイル攻撃という物理的な危険が身に及ぶことがあるのかも?という漠然とした不安があり、そうしたメディア情報ばかり追ってしまって、嫌になってしまいました。知り合いもいないし、特にやることもないし、体調不良のオンパレードで…。海外生活は初めてではないのに、なかなか適応できない自分がもどかしかったです。
②具体的に「テルアビブが安全だ」と思える点について
そんな私でも、「テルアビブがいい街だな」と思えるようになったのには理由があります。
まず第一に、戦時中とは微塵にも思えないほど、物流や経済活動が停滞することなく回っている点です。人々は毎日仕事やレジャーに勤しみ、あちこちを車で移動=渋滞は日常茶飯事です。スーパーやマーケットで食料品不足を感じることもないし、カフェやレストランは軒並み満席で、友人や家族とお喋りを楽しむ人々であふれています。私も、ミュージアムやハイキングに出かける「平和な日常」を満喫しています。
10月は、イランからの弾道ミサイル攻撃にかなり動揺して外出を控えていましたが、11月は暑さが落ち着き、イスラエルの名所や歴史に触れられる場所を訪れることで、あっという間に時間が過ぎていきました。私が加入している国際交流会(IWC)主催のイベントに参加し、あちこちに出向き、イスラエル人を含めて人に会って、この国のことをもっと知る。とても充実しています。
そして第二に、イスラエル国防軍(The Israel Defense Forces)の桁違いの軍事力で、この国は守られているのだ、ということを感じるからです。(あくまでもイスラエル側の視線で言えば、全ての戦闘は、自国を守るために行っている軍事行為です。)
中でも、ホームフロントコマンド(民間防衛軍)は、民間人の救助や保護を取り仕切る司令部で、ここから発表される行動制限に国民は従うことになっています。National Emergency Portalというサイトを見ると、ミサイルアラートの最新情報、サイレンや警報が鳴った時の行動様式、緊急時の対処法など、様々な情報が提供されています。
ボム・シェルター(ヘブライ語でママッド)は、設置が義務付けられています。長年、戦争や紛争を繰り返してきた国の歴史の中で、国民が自分の身を自分で守る行動をとることも求めらています。私はマンション住まいですが、自分の家にシェルター(ベッドルームやストレージを兼ねている場合が多い)があります。
そして、イスラエルが世界に誇る防空システムである、アイアンドーム。いわゆる「ミサイル迎撃システム」であり、主に市街地に向けて飛んでくるロケット弾やミサイルを狙い撃ちして、着弾する前に破壊するものです。上記ブリタニカによると、迎撃コストは一発4万ドルとされています。一発発射するのに600万円以上かかるのです…!これが安いのか高いのか?議論の余地はたくさんあると思いますが、このところ迎撃しきれていない(あえてしていない?)こともあり、迎撃弾不足、コスト不足、いろいろな噂を耳にします…。
されど、この迎撃のおかげで、テルアビブ市内中心部は確実に守らているのもまた事実なのです。
こちらのBBCの記事に、アイアンドーム以外の迎撃システムが詳しく解説されていますので、ご興味がある方はどうぞご一読ください。
第三に、ミサイル云々以外の「治安」に関しては、テルアビブ市内はとても安全です。小中学生は一人で(または友達同士で)保護者なしで登下校できますし、歩きスマホの大人も子供もたくさんいますが、路上でスマホをかっさらわれて盗まれる!という事件もありませんし、カフェやレストランでは、場所取りのために自分のカバンをひょいとテーブルに置いてレジに並ぶ光景も普通です。「ちょっとここに私の荷物置いておくから、あなたがみといて!」と周囲の人に警備(?)をお願いすることもあるようです。日本と同じで、【周りに人の目があるから大丈夫】という他人への暗黙の信頼感もあるように感じます。
何より、いろんな国からの移民がいるので、肌の色や人種で差別されることもありません。アジア人ヘイトもないし、道端で見知らぬ人から(興味本位で)「ニーハオ!」とあいさつされて、「日本人です」というところから会話が始まることもあるし、とにかく他人に寛容で友好的な人が多いのも、イスラエルのよいところだと思います。
スカイクレイパーなビルが立ち並ぶ都会的な景色、美しい地中海。陽気な人々。それらは普遍的なものとして目の前にあり、それを守るために脅威と立ち向かう、というイスラエルの確固たるスタンスがあるので、「自分の生活はとても安全だ」と感じています。(あくまでイスラエル国内からの視点です)
③逆説的に考えると、イスラエルは全くもって「安心できる国」ではない。
しかしながら、よくよく考えると、「国防軍がミサイルを迎撃して市民を守ってくれる」「兵士がテロリストや武装集団と戦って国を守ってくれる」「ミサイルアラートや警報、シェルターがあるから、いざというときも身の安全は確保できる」というその大前提こそ、おかしいなぁ???と思うのも、また事実です…。
国民は常にスマホの警報をチェックし、サイレンが鳴ったら身を守る行動を取り(シェルターに行く)、テロを警戒して人込みなどに行く際は気をつける。「地震や津波(=自然災害)から身を守る」のではなく、「ミサイルやロケット弾から身を守る」のです…。自分が暮らす市町村の上空をロケット弾が通過し、トラックなどが突っ込んでくるテロや無差別銃撃が次々と起き、違う民族同士の争いが多発。ものすごい冷静に客観的に考えると、「何も考えず、のんびり安心して住める国」ではないですね。ただし、緊縛強盗や(主に高齢者による)自動車事故など、日本に住んでいても何かしらの「身の危険」はあるので、犯罪や人命にかかわる事件への警戒が必要なのは、どこに住んでも同じかなと思います。
そして、物事の本質に切り込んでいくとすれば、『テルアビブは』安全ですが、イスラエル国土全域で考えると、そうではありません。上記のアイアンドームも、人が少ないエリアや荒野に落ちそうなミサイルは迎撃しません。仮に迎撃できても、空中分解したミサイルの破片が地上に落下し、民家や自動車が壊れたり、はたまた人が亡くなることもあります。ヒズボラとの戦闘が始まって以降、兵士を含めて70人を超えるイスラエル人が亡くなり、レバノンとの国境付近のイスラエル人は6万人以上が退避しています。
最近では、テルアビブ近郊の都市(10~15km圏内)にもミサイルが直撃、または破片による事故が起きて、火災やけが人が出ています。ペタハ・ティクバの民家、ラマット・ガンの鉄塔への被害が出て、(野次馬含めて)大騒ぎです…。ヒズボラのリーダーは軍が”eliminate”したはずなのですが、11/24は一日で250発のロケット攻撃があったとの発表が…!戦火は広がる一方です。
賛否両論ある中でも、一貫して【国防】のために全てを捧げるイスラエル
繰り返しますが、イスラエルの大義名分は【国防】ですので、国を脅かすもの(テロリスト)には徹底抗戦する、という確固たる信念があります。報道によると、これまでのガザ地区での死者は44,000人、レバノンでの死者は3,000人ですので、イスラエル人の犠牲者の数と比べたら圧倒的に多いのは事実です。(そもそもの発端である「10.7」でのイスラエル人死者は1,200人です。)
数字の上では、「それは…倍返し以上??」という疑念が沸き起こってきますが、戦争開始の認識としては「先に仕掛けてきたのはハマスである(2023.10.7)」という点を忘れてはなりません。「ハマスが今すぐ降伏して人質を返せば、戦争は終わる。政府は早く終戦に向けた話し合いを!」と主張する市民デモは、まだまだ活発に行われています。
なにより国民は、国防軍として立ち向かう兵士たちに感謝し、この国の復興と回復を信じて一致団結していこう!という信念を持っている人が多い印象です。兵士だって、徴兵制度で集められた若者たちがメインですので、誰かの大切な息子であり娘なのです。そしていまだに人質として囚われている人たちもまた、誰かの大切な存在。そういうところに思いを馳せて、心を痛めている人が大勢います。
結論:「テルアビブの物理的な安全はまだ守られている」「安心して暮らすには強い精神力と楽観的な人生観が必要」
さて今回は、私の駐在生活に対する精神面の変化や、イスラエル国防軍の威力について綴ってみました。今日現在、私はテルアビブで楽しく安全に暮らしていますし、何か劇的に変わったこともありません。しかし、このような気楽な日常が明日も続く保障はなく、毎日が平穏に過ぎていくことは当たり前ではないのかも、という価値観が生まれたことも確かです。「思ったように現実を変えられない(戦争のない平和な世の中にならない)状況」に対して、「日々できることを精いっぱい楽しんで、強くあろうとする!」というイスラエルの矜持こそ、この国でサバイブするためには必須である、と感じています。
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