中東が未知過ぎる問題。
「イスラエル」と聞いて、最初に何を連想しますか?私は「エルサレム」「宗教紛争地帯」くらいの教養レベルで、恥ずかしい限りです。どこにあるの?何を食べてるの?宗教が入り組んでいて争っているんだっけ?パレスチナと戦争しているところ?などなど・・・ニュースで聞きかじった程度の国名で、なじみがなく、本当に「無知の知」であることを痛感させられます。ぼんやりとした知識をもとに、周囲や身内からは「そんな危険な中東の国に家族で行くのって、本当に大丈夫なの?」と何度も何度も言われました。実際、大丈夫だとも危ないからダメだとも言い切れず、かといって私は、「絶対に行かない、いやだ!怖い!」と言い切れるほどの危機感や恐怖感もなく、どちらかというと、全く知らない中東で暮らせるなんてラッキーチャンスでは?という好奇心の方が勝っている。そんな心持で今回の赴任準備を進めています。決して、周りが保守的で批判的なのではなく、心配してくれるがゆえにそのように言ってくれるのは理解しているつもりですが、よく知らないものに対して、個人的なイメージやテレビで流れている光景だけを鵜吞みにするのはよくない、と私は常々思っています。「百聞は一見に如かず」、実際に体験してみないと分からないことの方が、圧倒的に多いのです。得体の知れないもの、自分が知らない事象であるから恐れるのであり、まずは正しく知って理解することで、初めてその判断を下せるのではないか、と思っています。
イスラエル国(State of Israel)について基本情報収集からスタート
第一に、どのような国であるかの基本情報は、外務省のホームページで確認するのがベストかと思います。以下、同ページからの抜粋情報です。
面積
2.2万平方キロメートル(日本の四国程度)(注1)
人口
約950万人(2022年5月 イスラエル中央統計局)
首都
エルサレム(注2)
民族
ユダヤ人(約74%)、アラブ人(約21%)その他(約5%)(2022年5月 イスラエル中央統計局)
言語
ヘブライ語(公用語)、アラビア語(特別な地位を有する)
宗教
ユダヤ教(約74%)、イスラム教(約18%)、キリスト教(約2%)、ドルーズ(約1.6%)(2020年 イスラエル中央統計局)略史
1947年国連総会はパレスチナをアラブ国家とユダヤ国家に分割する決議を採択。イスラエルは48年独立を宣言。48年、56年、67年、73年と周辺アラブ諸国と4度にわたり戦争。その後、79年にエジプトと、94年にヨルダンと平和条約を締結。2020年には、UAE、バーレーン、スーダン、モロッコと国交正常化に合意。
パレスチナ解放機構(PLO)とは、93年9月、相互承認を行い暫定自治原則宣言(オスロ合意)に署名。その後、暫定合意に従い、西岸・ガザではパレスチナ暫定自治政府による自治が実施されている。
- (注1)数字はイスラエルが併合した東エルサレム及びゴラン高原を含むが、右併合は日本を含め国際社会の大多数には承認されていない。
- (注2)日本を含め国際社会の大多数には認められていない。
政治体制・内政
政体
共和制
元首
イツハク・ヘルツォグ大統領(Mr. Isaac Herzog)議会
一院制(120名)(全国1区の完全比例代表選挙制度)
政府
- 首相 ビンヤミン・ネタニヤフ(Mr. Benjamin Netanyafu)
内政
- (1)1948年の独立以来、労働党を中心とする左派政権が約30年間続いたが、その後、リクード党を中心とする右派政権、左派の労働党政権、および両者による大連立の政権が交代し、2005年11月に中道新党「カディマ」が結成されるまでの間、労働党とリクード党の左右二大政党による勢力拮抗時代が続いた。
- (2)2006年1月にシャロン首相が脳卒中に倒れ突然政界引退。同年3月の総選挙ではオルメルト新党首率いる「カディマ」が第一党となり、5月に労働党等との間で左派・中道の連立政権を樹立。
- (3)オルメルト政権による2008年12月末からのイスラエル軍のガザ進攻後に実施された2009年2月の総選挙の結果、同年3月に「イスラエル・ベイテイヌ」等の右派・極右政党、宗教政党及び中道左派の労働党が参加する右派リクード党主導の第2次ネタニヤフ政権(第1次は1996~99年)が誕生し、その後はネタニヤフ首相率いるリクード党を中心とする連立政権が継続。
- (4)2021年3月の総選挙の結果、同年6月にネタニヤフ長期政権からの変革を旗印に、ヤミナ党(宗教的右派政党)のベネット党首を首班とし、宗教・右派から世俗・左派まで幅広い政党で構成される連立政権(変革内閣)が成立するも、約1年で議会は解散。2022年11月の総選挙の結果、12月にリクード党を中心とする第3次ネタニヤフ政権が成立した。
外交・国防
外交基本方針
- (1)イスラエルの外交方針は自国の安全確保が最優先課題。米国を中心とする欧米諸国との協力を重視してきたが、近年はその国際的地位の向上に伴い外交の多角化に努め、アジア、中南米、アフリカとの関係強化にも努めている。
- (2)アラブ諸国のうち隣接するエジプト、ヨルダンと和平を結んだことにより、周辺国との戦争の可能性が低下した一方、イランの脅威が相対的に浮上し、現在、イランを安全保障上の最大の脅威とみなして警戒を強めている。
- (3)中東和平問題については、1991年のマドリード会議以降、オスロ合意締結、ヨルダンとの和平条約締結等の進展はあったが、2000年9月のパレスチナとの衝突(第2次インティファーダ)発生以来、和平プロセスは停滞。
07年11月のアナポリス中東和平国際会議において、オルメルト首相(当時)とアッバース・パレスチナ自治政府大統領との間で7年振りの和平交渉再開が合意されたが、進展は見られなかった。10年9月、約2年ぶりに実施されたイスラエル・パレスチナ間の直接交渉もすぐに頓挫。13年7月、米国の仲介により直接交渉が再開されたが、これも14年4月に中断となった。 - (4)パレスチナとの直接交渉再開の目処が立たない中、2020年8月以降、米国の仲介によりアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン及びモロッコと国交正常化に合意するなど、アラブ諸国との関係改善に努めている。
軍事力(IISSミリタリーバランス2022)
(1)兵役:男子32か月、女子24か月(更に予備役あり)(2)兵力:正規軍 16.95万人(陸軍12.6万人、海軍9,500人、空軍3.4万人)
予備役 46.5万人(陸軍40万人、海軍1万人、空軍5.5万人)
占領地及び入植地
イスラエルは、1967年(第三次中東戦争)に占領した東エルサレム及びゴラン高原をその後併合しているが、右併合は日本を含め国際社会の大多数には承認されていない。また、ヨルダン川西岸はイスラエルの占領下にあり、これら地域におけるイスラエルの入植活動は国際法違反とされている。
日本は、イスラエルと将来のパレスチナ国家の境界は、1967年の境界を基礎とする形で、交渉を通じて画定されるべきとの考えを支持している。(中東和平についての日本の立場)
経済
主要産業
鉱工業(ダイヤモンド研磨加工、ハイテク関連、食品加工、繊維、ゴム、プラスチック、薬品、機械、電子機器、カリ、臭素等)、農業(柑橘類、野菜、穀物、生花、酪農品等)
GDP
約4,816億ドル(2021年 世銀)
一人当たりGDP
約51,430ドル(2021年 世銀)
経済成長率
8.1%(2021年 イスラエル中央統計局)
物価上昇率
1.5%(2021年 世銀)
失業率
3.5%(2022年5月 イスラエル中央統計局)総貿易額
(1)輸出約490億ドル(2020年 JETRO)(2)輸入約702億ドル(2020年 JETRO)
貿易品目
(1)輸出機械類、化学製品、ダイヤモンド、医療精密機器、農産品等(2)輸入機械類、化学製品、輸送機器、燃料等
貿易相手国
(1)輸出欧州、北米、アジアの順に多い(2020年 JETRO)(2)輸入欧州、アジア、北米の順に多い(2020年 JETRO)
通貨
新シェケル(NIS)
在留邦人数
1,156名(2021年10月現在、東エルサレム除く 外務省海外在留邦人数調査統計)
在日当該国人数
589名(2021年12月現在 法務省在留外国人統計)
上記がイスラエル国の「基礎データ(抜粋)」ですが、明らかに先進国です。経済基盤もかなり発展していて、一人当たりのGDPは世界14位(2022,同日本は32位)、ハイテク関連企業が台頭しているため、経済的首都とされているテルアビブの街並みは、アメリカの西海岸のようなビーチがありながらも、東京都心を彷彿とさせるような高層ビルが立ち並んでいます。このブログのヘッド画像もテルアビブ市内です。兵役もあって軍事力の整備にもとても力を入れている国なので、GFP(Global Fire Power)に基づく軍事力ランキングは世界17位(145か国中)。国の大きさや人口を考えたら、かなりのものかと思います。四国ほどの面積の国土に神奈川県の人口と同じくらいの人が住んでいて、そこが一つの国として巨大な軍事力を持っていると想定すると…その規模が具体的にイメージできるかと思います。
書籍から情報を得る
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赴任が決まって最初に探したイスラエル関連の書籍は、「地球の歩き方」。観光にいくわけではありませんが、外務省ホームページのような基本情報に加えて、気候や風土の情報、食べ物ガイド、観光地を含めた見どころなど、知っておきたい情報を日本語でざっと読めるので大変役に立ちます。
地球の歩き方は、web版でも細かな情報を無料で読むことができます。イスラエルのページもありました。基本、地中海に面している暖かい(というか暑い)国なので、今の時期(三月~四月)でも最高気温28度になる模様。個人的には寒くない国に行けるのはうれしいです。
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最近読了した書籍です。外交官としてパレスチナ・イスラエル和平問題に携わった筆者がまとめた、外交・政治面からのイスラエル(および中東諸国、アメリカ)について詳しく書かれています。歴史的な観点から見ても、この二か国間(およびそれを取り巻く国々)との関係性や外交の行方はとても複雑です。パレスチナがなぜ「自治区」なのか、ガザが人々にとってどんな存在なのか、初めて知ることばかりでした。今はハマスによる侵攻報道しか見聞きしませんが、15~20年前のガザ地区はとても平和で穏便な市民生活が送られていたことも知りました。そして現在のネタニヤフ首相の強硬派外交も、問題解決から遠ざかっていく一端を担ってしまっているように感じます。一国のリーダーが誰であるか、どんな外交政策をするのが有益なのかについて考えさせられました。
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こちらも外交官としてイスラエルで働いたことがある筆者によるイスラエル入門の書。イスラエル現地の文化論やあまたあるイスラエルの祝日についての記述が大変興味深いものでした。兵役は男女問わず徴兵されるイスラエルの制度でありながらも、ここでいかに活躍するかがその後の出世への道のりに直結する、という点が、この国の軍事力を支えるキーポイントなのかなと思いました。こちらの本は電子書籍しかなく、私は図書館で借りました。後半は文化比較論や歴史の解説ですが、私は流し読みしてしまいました…
以下の本は、これから読むのでブックレビューはまたのちほど。
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“Knowledge Is Power”
フランシス・ベーコンの名言より。知らないこと、わからないことをそのまま放置しておくのは私の性分に合わない、というのもありますが、まずは知ること。それが何よりも力になると信じています。パレスチナ問題はちょっとした情報をかじって知ったかぶりをできるほど簡単なものではありませんし、ユダヤ教を含めて宗教問題を語れるほど、私は信仰深くもなければ正しく理解・共感できる素養を持ち合わせていません。ですが、赴任が決まって以降、中東問題、外交問題、世界情勢にはこれまでよりずっと目を向けるようになりました。日本ではこうした外交ニュースはほとんど報道すらされていないので、BBCやブルームバーグ、The Economistなどもなるべく目を通しています。個人的なおすすめは、Espresso。有料ですが短時間で世界のニュースに触れることができますよ。
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